“自分はひとりじゃない” 若者の夢を応援する120日
親からの虐待や経済的事情により、家庭を離れて児童養護施設で暮らす子どもたちは全国でおよそ3万人。彼らの大学等への進学率は23%(全国平均71%)※1に過ぎず、また進学後の中退率は21%(全国平均の約3倍)※2にもなります。親を頼ることができない彼らは、学費と生活費を自分で用意しなければならず、進学できたとしても学業とアルバイトの両立に心身ともに疲れ切ってしまうのです。“カナエール”は児童養護施設を退所した後、専門学校や大学等へ進学する若者を支援する奨学金プログラムです。
希望格差の解消を目指して
児童養護施設退所者の進学を支援する動きが急速に広まっています。
文部科学省は日本で初めてとなる給付型奨学金を、平成30年度からの本格導入を前に来年度から一部先行して実施すると発表しました。低所得世帯の学生のうち特に経済的に厳しい学生が対象になります。児童養護施設などから進学する学生には入学時に24万円を支給することも決定しました。
また、厚生労働省は児童養護施設の若者の自立支援の取り組みとして、これまで原則18歳までとされていた施設で暮らせる期間を22歳まで延長する方針を出し、来年度の予算を取得しています。
このような公的な制度が充実していくことにより、経済的な理由で進学を諦める若者が少なくなることを願ってやみません。
カナエールは資金と“意欲”でサポートします
カナエールは毎月3万円の給付型奨学金による「資金」の支援に加え、社会人ボランティアによる「意欲」のサポートも行っています。
児童養護施設で生活する子どもたちは、親からの虐待や家庭環境に恵まれなかった経験から、自己肯定感が低い子が少なくないと言われています。自分が施設出身であることを人に知られたくないと思っている子もいます。前向きに人生の目標を持つことが困難な背景は、経済的な理由だけではありません。
昨年のコンテストに出場した高校三年生の女の子の言葉を紹介します。
自分はひとりじゃない
私は始め、カナエールに参加することに対して抵抗がありました。自分の思っていることを人前で堂々と話したことが無かったし、話したいとも思っていなかったからです。スピーチの中でも述べましたが、私は児童養護施設にいることを人に話したくないのです。
ですが、かたくなにそう思っていたのはカナエールに参加する前までです。一緒に過ごしたルンジャー(他のコンテスト出場者)やエンパワ(社会人ボランティア)の方々は誰も私を「施設の子」扱いしなかったので、一緒にいるときとても楽でした。また私の様な年齢の人が沢山いて、いろんな考えが聞けました。そして自分はひとりじゃないのだと元気づけられました。
カナエールに参加する若者(“カナエルンジャー”と呼んでいます)は、3人の社会人ボランティアと4人一組のチームを組み、スピーチコンテストというゴールを目指して120日間のチーム活動をします。
子どもも大人もお互い知らないもの同士の関係から始まります。合宿でのチームビルディングに始まり、原稿作りやスピーチトレーニング、奨学生が目指す職業に就く大人への”仕事人インタビュー”や、コンテストで上映する紹介映像作りなどにチームで取り組みます。観客の心に届くスピーチを作り上げるために、子どもたちは自分の夢を見つめなおし、何度も書き直しながら原稿を仕上げていきます。時には自らの過去の辛い経験と向き合うことも必要になります。そんな彼らを傍で支えるためには、大人たちも自分をさらけ出さなければなりません。大人も子どももとことん本気で向き合うで、だんだんとお互いを信頼するチームになっていきます。
最高のスピーチを作り上げ、子どもを無事コンテストの舞台に送り出そうと、必死になる大人たち。そんな、家族でも先生でもない、でも自分のために一生懸命な大人たちの関わりが、彼らの自己肯定感と夢への意欲を高めていきます。
私の考えは本当にひねくれていて、(コンテスト会場で)聞きいれてくれた方々にどう思われるか不安もありました。でもそんな不安は無駄でした。コンテストが終わった後、たくさんの方にメッセージをもらい、その内容は全て私の背中を押してくれるものでした。、あのメッセージカードは私がこれからの人生でつまずいた時、折れそうになった時、読み返したいと思います。本当にありがとうございます。
数百人の観客の前で夢をスピーチするという大きな目標を成し遂げること、そしてたくさんの応援者の存在を感じることが、彼らが困難を乗り越え夢を叶えていくための力になります。子どもを家庭だけでなく、社会全体で育てるためのひとつの形がここにあります。
カナエールには120日間のチーム活動が終わったあとも、奨学生が大学、専門学校等を卒業するまで継続して支援をするプログラムもあります。現在、2017年度のボランティアを募集しています。あなたも彼らを支える大人のひとりになってみませんか。
(実行委員 きゃね)
※1 厚生労働省「社会的養護の現状について」2015年調べ
※2 NPO法人ブリッジフォースマイル2015年調べ